久しぶりにイタリア風日本人兄さんの経営する
悩ましい靴屋を訪問。
明後日から実習が始まるにあたり、初日は実習施設の偉い人にご挨拶に行くので、スーツに合わせた靴が欲しかった。
最近すっかり内反小指がすすみ、以前履いていた踵の高い靴はもう足が痛くて長時間履き続けられない。入学式で限界で途中でペタンコ靴(しかもどう見てもスーツには合わないカジュアル系)を買ったから。
ヒールが高い靴はツライ。
だから、ヒールの低い黒のパンプスで、グレーのタイトのスーツに合うのが欲しかった。
「ヒールが低い…3cmくらいの、黒い普通の…あ、ここには普通の靴はないから…普通っぽいパンプスが欲しいんですけど。」
真面目靴なので遊びはいらないけど、あんまりスタンダードじゃつまんない。
兄さんは、またいつものように私の要望とは無関係の、兄さんが履かせたいと思う靴を出してくる。
琥珀色のエナメルのパンプス。カッコいいよ。だけど、黒が欲しいんだってば。
ベルトのついた黒いショートブーツ。カッコいいよ。だけど、パンプスが欲しいんだってば。
5cmヒールの形のいい黒いパンプス。まあまあキレイだよ。だけど、踵が低いのがいいんだってば。
「aglianicoさん、3cmじゃおかしいよ。5cmくらいはないと駄目だよ。」
「お…おかしい? おかしいとまで言う??」
「あはははは。だってさあ…その方がいいよ。」
兄さん、相変わらず客の要望などどうでもよいらしい。
ちょうど夏から秋の商品入れ替えの時期で、ショーウインドーには靴は1足も並んでいなかったし、店内の棚も半分くらい空っぽだったから、品薄だったこともあるのだろうが。
(日本ではこういう状態のままで店を開けないと思うのですが、ここは日本ではないのでね。)
琥珀のエナメルとショートブーツはまだ店に出ていないものを兄さんは奥から出してきていた。
いつものような衝撃的な出会いはなかったものの、欲しいだけじゃなくて必要だったので、私は5cmヒールの形のいい黒のパンプスを買うことにした。
今持っている靴よりはだいぶいい。
「うん、これはキレイなんだよ。」
兄さんは私がその靴を買うことにも、その靴が私に買われることにもどうやら不服はないらしかった。
お値段、17600円。
「今日カードでいいですか。現金ないんですよ。」
「ええー。現金ないの? 現金がいいんだけど。」
「ええー。今日これから美容院行くから…。えっとー…15000円ならあるけど。」
「ああ…じゃあそれでいいよ。」
へっ? いいの?
もしかして得した? じゃなくてもしかしてぼったくり?
…ということで、今回は別の意味で悩ましい靴屋でした。