秋になるとどこの美術館もこぞって魅力のある展覧会を開催する。
その手はじめとして、
ウィーン美術アカデミー名品展へ出かけた。
私がウィーンを実際に訪れたのは1998年。
ローマからの夜行列車の中では、前の晩に飲んだ汲み置いた噴水の水を飲んだおかげでひどい嘔吐と下痢を繰り返し、トイレに通いっぱなしで一睡もできず。
着くなり喫茶店で「ホットミルク」をちびちび飲みながら一休みして、宿を探す元気もなく、観光案内所でとってもらったところに飛び込んでその日一日ひとり寝込んで棒に振った。
このときほどポカリスエットが恋しかったことはない。
そのとき、おそらく美術アカデミーは訪れなかったと思われる。
そのような美術館の名前は記憶にない。
そんなわけで初めて観る絵ばかり・・・のはずなんだけど、なんか観たことあるような気がするのは
フランドル絵画への懐かしさのせいだろうか。
フランドル絵画はジャンルとしては私がいちばん好きな展覧会だ。
繊細で静かで、子どもの頃祖父母の家に遊びに行ったときに祖父のアトリエから漂う油絵具の匂いをかいでいた、あの薄暗くて落ち着いた優しく厳かな空気と、
フランドル絵画の空気は同じに感じられるのである。
ざらざらの白いキャンバス、盛られていく絵具、そしててかてかと光る色、あの不思議な工程の価値など、当時の私には知る由もなかったが、ただ、好きだということは自覚していた。
今回の展覧会でいちばん感動したのは、イタリアの新古典主義の彫刻家、
アントニオ・カノーヴァの肖像画だった。
「あっ!」
と思わず声をあげてしまった。
神経質そうな何かに怯えたような、何かが内側に広がるカノーヴァの表情からは、容易にあのスラっと無駄のない美しい彫刻が想像できた。
今は亡き偉大な彫刻家に、ここで思いがけず対面した気分。
他に、気に入った画で、なおかつ絵葉書になっていて買ってきたものをご紹介。
ヒリス・ファン・ティルホルフ/農民の食事何に惹かれるって、床に置かれたムール貝の殻。
イサーク・ファン・ロイスダール/板塀のある風景この空き地を駆け回って遊び、この小道を家へ向かって歩いた、そんな懐かしさ、ここを、私は知っている、行ったことがある、という感情が湧いてくる風景。
フランドル絵画にはそういう思いを呼び覚ます絵がとても多い。
アレッサンドロ・フレーフェンブルーク/月光の下の地中海の港
今回の展覧会の絵葉書は皆、実物よりも明るく撮影されている。
この画も、実際にはもっと月光が明るく印象的で、周囲は暗く描かれている。
不気味な、静かな、深い落ち着きのある夜の海。
明るすぎて実物と印象があまりに違いすぎて、絵としてはすごく気に入ったのだけど、買わなかった絵葉書もあった。
フランチェスコ・グアルディ/サン・マルコ広場と時計塔ヴェネチアを描かせるならカナレットかグアルディか。
ふたりとも私はこよなく愛しているが、幾度となく訪れているサン・マルコ広場でありながら、この時計塔を工事中の垂れ幕なしに仰ぎ見たことが果たして何回あっただろうか。
サン・マルコ大聖堂ではなく、時計塔が題材になっているこの絵、なかなかいいと思う。
時代を超えて、当時の時計塔を仰ぎ見る気分。
こういう絵を観ると、自分も油絵を描きたくなる。
以前、ちょっとだけ習ったことがあるのだが、場所的な都合ですぐに辞めてしまった。
簡易式のイーゼルもあるし、道具は一通り持っているのだが。
そういえば、どこかにひとつ、「柿」を描いたキャンバスがあったような・・・。
唯一の私の油絵の作品。はて、どこにしまったか・・・。