意味不明の被写体になる
マテーラの街を上手く説明するのはとても難しいのだが、起伏のある土地の高台が現在の旧市街、下へ下るとサッシ、という構造になっていて、サッシと旧市街はある程度融合している。
見物できるサッシはいくつもあるのだが、この暑い中、街を隅から隅まで歩く元気はないし、いくつか観ればみんな似たようなものだろうと、
私たちは行ってみる洞窟を地図上でチェックした。
できるだけ効率よく周れるように、道順の計画を立てる。
そして、団体旅行が時折行列を作って進んでいくのを参考にしながら、私たちもサッシへと降りて行った。
Madonna dell’Idris教会が思いの外混んでいたので、私たちはすくのを待って、教会の前の岩場に腰掛けていた。
ちょうど教会が日陰を作っていたので、他にも一休みする観光客がたくさん座っていた。
教会を背にして座ると、ちょうどSASSO BARISANOが一望できる。
サッシはドゥオーモを境にして、
サッソ・バリサーノと
サッソ・カヴェオーソに分かれている。
私たちが暑そうなサッシの風景を眺めていると、後ろ側に座っていたイタリア人のおじさんが近寄ってきて、私たちに話しかけた。
英語で話しかけてきたが後ろではイタリア語を喋っていたので、イタリア人だと思われる。
最初、サッシの写真を撮るから私たちが前に座っているのが邪魔だからちょっとどいてくれ、と言われているのかと思い、私は慌てて立って端によけようとした。
するとおじさん、後ろにいる連れに向かって「この子達、わかってないよ。」とイタリア語で笑いながら言った。
そのイタリア語は理解できてしまったので、どうやら英語が正しく理解できていなかったことを察する。
おじさんからジェスチャーつきの説明を受けた後、私たちを被写体にして写真を撮りたいからポーズをとるように要求されていることがわかった。
私たちは間を50cmくらい空けて隣り合って体育座りをさせられ、ふたりで両端を外側の手に持って広げた一枚のマテーラの地図が、その間からうまい具合に後ろに見えるように持たされた。
それを後ろから撮ると、サッシの広がる中で地図を調べているふたりの東洋人の画が出来上がる。
私たちはあまり意味がわからないままきょとんとして言われるままに動き、終わったらお礼を言われた。終わってみて少ししてから何が起こったのか理解した次第。
この写真を、おじさんは何に使うんだろう。
「アルバムに、『イタリアにはびこる日本人;マテーラ編』とかいうタイトルで貼られるのかなあ。」
と、私たちは不思議に思い続けている。
《つづく》