ツーリストインフォメーション
通称
i (アイ) 。
初めての街に着いたら、まずは
i を探し、街の地図をもらう。方向感覚がおそろしく鈍いので、地図がないと動けない。感覚で動いてひどい羽目に陥ってしまった経験は実際にあるわけで、ここだけはとても注意している点だ。
地図を持たずに歩くな。
i は駅前や街のメインストリートや、中心の広場などにあることが多い。
2冊のガイドに、バーリの
i が駅のロータリーの広場からちょっし入ったところにあると表示されている。
先にホテルへ行ってしまうと、街の中へ向かうのと駅へ向かうのとが反対方向になってしまうので、私たちはワインの瓶が入った重たい荷物を引きずって、頑張って先に
i で地図をもらってからホテルへ行き、そこから元気にバーリ観光にでかけることにした。
ところが、地図上であるはずの場所には銀行があって
i がない。
これは道の反対側なのか?と思い、ロータリーのひとつ外側の通りもぐるりと回ってみたが見当たらない。
バーリは思っていたよりずっと開放的で危険は少なそうだけど、こんな荷物をもってあんまりうろうろしていたい雰囲気でも気分でもない。
私たちはまずホテルに向かうことにした。しぶしぶ選んだ4つ星ホテル。一度荷物を置いて身軽になって再捜査だ。
部屋にはまだは入れなかったので、荷物を預けて私たちはすぐにまた外へ出た。
朝食がまだだったので、途中のバルでカフェラッテを飲んだ。(なぜかグラスがコカコーラ・・・)
おまけにちびクロワッサンがついてきた。ラッキー!
私たちは駅のロータリーに戻ると、駅に向かって左側の道の建物をくまなく調べた。
i の住所、Piazza Aldo Moro 33/a 番地を探す。
しかし、30番地台に入るとすぐ横道があって、建物の住所が途切れてしまう。その横道は工事中だが通行はできて、アーチをくぐるとロータリー沿いの道に並行している通りに出る。
ちょうど工事中の辺りが目指す番地のはずで、向こう側の通りに出てしまうと住所がPiazza Aldo Moro でなくなってしまい、その通りの名前になってしまうはず。でも、念のためもう一度外側の通りに出て、ぐるっと回ってまたもとの道に戻ってきた。
そのとき、私は工事中の道に入る少し手前の建物の窓ガラスに「infomation」と書かれているのを見つけた。
「あった!」
アリタリアのマークもついていて、旅行会社っぽい構えだが、一応「infomation」と書いてあるので入ってみる。
しかし、こっちを向いたお姉さんに
「街の地図をふたつください」と言うと、お姉さんは「あ~あ」という困った顔をして外まで出てきて工事現場方面を指差して、
「ツーリストインフォメーションはあっち、33番地よ。」と言った。
そのお姉さんの様子から、ここにも、旅行者が
i と間違えてよく来るのだろうと思われた。
でも、私たちも「あ~あ」である。33番地であることは、知っているのだ。
ただ、やっぱり33番地はその工事現場近くであることははっきりした。ガイドにある番地が間違っているのではなさそうだ。
もう一度工事現場できょろきょろするが、
i の看板は見当たらない。
すると、そこで歩行者の交通整理をしていた現場のお兄さんに、
「いいよ、通って。行って、行って!」
と促されてしまった。いえ、私たちは別にここを通っていいかどうかについて戸惑っていたわけではなく・・・。
が、この状況をどう説明すればいいかわからず、意味もなくまたアーチを抜けて向こう側の通りに出てしまった。
「違うから、そーじゃないから。」
私たちは自分たちに向かってそう言い、またアーチをくぐって工事現場に戻る。
現場のお兄さんは不思議そうに私たちを見ていたが、そのときは私も何をどう言えばいいやらわからなかった。この人にきいてみようかな、という考えも脳裏をかすめたが、こういう地元の人は
i がどこにあるかなんて知らないよね・・・と思ってしまった。
でも、そんな風に思わずに、「私たちは
i を探しています。」と言ってみれば、もしかしたら彼は自分が知らなくても、別の助けを見つけてくれたかもしれない。
現在進行形だって去年の時点で勉強してたのに。やっぱり、とっさに言葉に出てくるほどは身についていないのだ。
i の看板がみつからないので、私たちはもう一度壁についている番地の数字を注意深く見てみた。
すると、その工事中の短い横道に、33番地を発見した。私が「横道」だと思っていた場所は道ではなく、「広場の窪み」だったみたいだ。しかし、その33番地には
i の雰囲気はかけらもない。
建物の入り口は階段になっていて、上がりきったところに、どうみても
i ではない窓口があり、3人のおじさんがたむろって何やら喋っている。
私たちは上がって行ってまた言ったみた。
「街の地図をふたつください。」すると、「ああ、それは上だよ。」との返事。
ああ、やっと見つかったらしい。
階段を更に上がっていくと、横にものすごく小さな
i の表札のついたドアをみつけた。しかし、ドアはびったりと閉ざされている。
私の知っている
i はたいがいガラス張りのドアで、明らかに
i
だとわかる目立つ造りになっているし、観光客が何人かカウンターで相談事をしているものだ。
だいたいどこの街も
i ってのは目立つように道しるべがあったり看板が出たりしているのだ。
ここまでの道のりはいったい何だ!?
「え。休み?」「うそ・・・開けてみる?」
私たちがしばしドアの前で躊躇していると、そこに郵便屋さんか何かの集金らしきおじさんがやってきて、表札の下の金属製のぽっちを押した。
呼び鈴だった。
中からおばさんがひとり出てきて、ドアを開けたままそのおじさんと何かを喋りだす。
しかし、ふたりは私たちに全く気を留めず、私たちなんてそこにいないかのようにドアの前で喋り続けた。ふたりの隙間から中を覗くといろんな資料が置いてあるらしい棚が見える。
「あ、ここだよ。」友人Kが確信をこめて言った。
私たちはふたりの間をぬって中に入る。
すると、別のおばさんが「ようこそ!」と言わんばかりの笑顔で近づいてきた。
私はもう一度言う。
「街の地図をふたつください。」おばさんは笑顔で快く地図をふたつ出してくれた。やっと手に入ったバーリの地図。
i を訪れたことをそのように歓迎してくれるなら、もうちょっとわかりやすいようになんとかしてもらえないでしょうか?
しかしその地図、新市街は通りの名前も詳しく出ているが、旧市街は通りの名前も広場の名前も全く載っていない。思いの外、使えない地図であることがわかった。
宮下孝晴氏の本に、バーリの
i でもらった地図は旧市街がわかりにくい、と書いてあったので、もらったときにちゃんと通りの名前が書いてあるかどうか確認して「よし」と思ったのに、私も友人Kも、新市街をみて、そこが旧市街だと勘違いしていたのだ。旧市街は新市街に比べて、とても範囲が狭く、見逃していたのだ。なんだ、宮下氏が来た時よりバージョンアップした地図が手に入ったと思ったのに、同じ地図だった。
しかし、これで「地球の歩き方」や他のガイドの簡略化された地図よりはだいぶマシになった。
心強く新市街を歩くことができるし、
旧市街は海に面しているのでなんとかなるだろう。
私たちはようやくバーリの街の中心へと向かっていった。
既にひとつ、
i という場所の観光を終えたように気分で・・・。
《つづく》