マテーラの眺望
正直に言うと、マテーラのサッシの眺めというのは期待はずれだった。
もっと、ものすごいものを想像してしまっていたので、「なんだ、こんなもんか。」という感想に終わった。
これはサッシそのものがたいしたことはない、ということではなくて、あくまで個人の期待感と現実とのギャップによるものなので、感じ方は人それぞれだと思う。
坂道を昇って行くと、ドゥオーモが建つ広場に出た。
もっとドゥオーモに近寄って、下に広がるサッシを眺めた。
サッシは是非描いてみたいと思っていたけれど、陽射しのせいでそんな集中力は湧いてこない。
この眺めはどう形容したらいいものやら。
美しいというのとは違うし、壮大というほどの迫力でもないが、しかし、やっぱり一種独特の
何かしらは感じる。
わりかしあっさり、「ふーん。」と言って、ドゥオーモの中でちょっと涼んでから、私たちはまた阪を下っていった。
ここからの眺めが素晴らしい、と書いてある以上、ここ以上の見ごたえはもう期待できないということだ。
あとは実際に洞窟教会に入ってみてのお楽しみだ。
坂を下っていると、地元の人らしきおじさんが声をかけてきた。珍しく(?)、すごく普通な感じの、私たちのことをちゃんと30代だと思えるであろうおじさんだ。
「中国人?」
「いいえ、日本人です。」
「ここは気に入ったかい?」
「はい。」
「マテーラの次はどこに行くの?」
「バーリです。」
「ほほう、バーリ。よい旅行を、さようなら。」
「ありがとう、さようなら。」
小柄で頭の禿げたそのおじさん、雰囲気は聖職者・・・とまではいかなくても教会関係者のように私には感じられ、これだけの他愛もない会話だったけど、なんとなく心が癒された気がした。
《つづく》