それからこれはフォロ・ロマーノ。同じ1995年作。
フォロ・ロマーノが見下ろせる高台のちょっとした広場で描いていた。そこには絵葉書や置物を売る出店や、ジュースやパニーノを売るスタンドがいくつか並んでいた。
置物屋の出店の主人は明らかにイタリア人ではなく、アラブか南米か、別の国から出てきた人のようだった。時々私のスケッチブックを覗きに近寄ってきて「悪くないね」という風にうなづいては持ち場に戻る。
時には「あれはティトゥスの凱旋門だ。」と指さして教えてくれたりした。
そこへひとりの英語圏の白人のおじさんが買物に来た。彼は十羽ひとからげのようなただみたいな格安値で置物をまとめ買いしようと交渉を始めた。
店主は必死で断る。
アラブ系や南米系の顔立ちを見ると、そうではないと知りつつも、なにか犯罪者のような偏見を持ってしまうが、私はこのとき、真面目に働く彼らを侵略した白人、という歴史の縮図を見た気がした。その白人は、とても高慢で意地悪に見えた。
白人のおじさんが諦めて、おそらく簡単な悪態と思われる言葉を残して去って行った後の店主のやりきれない表情が、私には忘れられない。